春の歌

‪件のなんとかウィルス。麦酒みたいな名前のウィルス。そういえばあの麦酒、大学生の時に初めて飲んだのは、大好きなハンバーガー屋だった。

 

僕はそれまで、日本製の麦酒ばかり飲んでいたんだ。けれどメキシコ産まれのそれに小さくカットしたライムを入れて飲んでみたら、驚いた。それは、かつての僕が知っていたどの麦酒とも違っていたから。以来、僕は海外の麦酒を飲んではこそこそと誰に見せるでもないメモを取るようになった。

 

そう、そんなおもひでの麦酒に名前が似たあのウィルス。僕はあれよりも花粉の方が何千倍も怖いし、いや、千は言い過ぎでしょう、たぶん花粉の方が何十倍も怖いし、仮にこのウィルスが突然変異して人類にとって真に脅威的な存在になったとしても、別にもうそんなに長生きするつもりもないしまあいっかーって死にそう。

 

みんな、命が惜しいんだねえ。僕はその必死さ(読んで字の如く)が、すごくすごく羨ましいよ。

 

もう春が来るというのに、そんなしみったれた話題ばかりで、悲しいの。

 

だから、もっと彩りのある話をしよう。

一面を埋め尽くす花や、安物のウィスキーを飲んで酩酊する書生たち。ありふれすぎてもはや下品でさえある桃色の花びらや、やわらかな陽だまり。シャツ一枚で出掛ける公園や、子供がはしゃぐ声。

 

そんな唾棄すべき初春の光景が、今はこうも恋しい。