2019年2月2日(土)車道3star

近ごろ、「ライブハウス恐怖症」を発症していました。

ライブを見に行こうと思っても身体が動かなくなり、なんとか駅の改札の前まで行ったものの、引き返した日がありました。どうにかライブハウスの前に来たはいいものの急に入るのが億劫になってしまい、ビールを飲んで自分の気持ちを誤魔化さなければ入場できなかった日もありました。


ツイッターやらなんやらで、「ライブハウスは怖い場所ではない」という論調の発言をいくつも目にします。

確かにかつての僕にとって、ライブハウスは怖い場所ではありませんでした。

けれど近ごろになってようやく、実は恐ろしい場所なのだと思うようになったのです。

ライブハウスに出演している人間がこんなことを言うべきではないのかもしれませんが、近ごろの僕にとっては近寄りがたい場所になってしまっていました。


それは自分が表現する立場に置かれているからかもしれません。

はたまた、自分が以前のバンドを投げ出してしまった後ろめたさからかもしれません。

僕はいつからか、「ここにも自分の居場所はない」と考えるようになってしまいました。


2月2日、車道3starのライブに出演することを決めた理由は一つでした。

ライブにお誘いいただいた時、出演者の中に「ホームズセブンティーン」の名前があったことが、今回のライブへの出演を決意した何よりの要因でした。


ホームズセブンティーンは三重県のパンクロックバンドで、以前ライブハウスで目撃した折、その初期衝動的なパフォーマンスと大人になっても童心をけして忘れぬようにしようと反抗するかのような熱量にすっかり魅せられてしまいました。そんなバンドと共演できることが嬉しくて、出演を決意した次第です。


そんな思いがあったにも関わらず、2月2日の朝を迎えた僕の身体は鉛のように重たくなっていました。

もうこのまま2度と起きたくないと考えてしまい、二度寝、三度寝をしようかと考えるほどでした。


しばらく天井を眺め、比類するものがないほど無意味な時間を過ごしたからなんとか頭を擡げ、パソコンに向かいました。朝のうちに少しだけ仕事を少し進めます。ライブハウスへ出掛けなければならない時間が近付くほどに、視界が狭くなってくるような感覚がありました。


ライブハウスへ向かう道中、自動車を運転していると頭がぼんやりとしてきました。自分がここにはいないような心地がして、目の前の車に思い切りぶつかったらどうなるのかと何の役にも立たない空想をしていました。


ああ、鳥渡、日本語に疲れてしまいました。

 

 

2月2日は苦痛から始まった一日でした。もうこれ以降、しばらくライブ活動を辞めようかと思っていたほどでした。しかし、終わってみて思うのは、僕はやはり音楽を愛しています。音楽には大した力はないのだと諦観した目で眺めることがあっても、それでも心の奥底で音楽の持つ力を信じていたいのです。そして僕は音楽から逃げている自分のことを、肯定できません。僕は音楽に向き合い、音楽を作り、誰かの前でそれを鳴らし、歌っているときにようやく自分を許すことができます。


僕はこの日、自分なりの表現を全うしたつもりです。難易度の高い新曲もなんとか披露することができました。

新曲「ヒポコンデリー」はBPM210を誇る僕が制作してきた中でも最速の楽曲です。さらに変拍子を交え、ギターのアレンジも不必要なほどにわざと難しくして、自分を苦しめた曲でした。それを人前で披露できたことは、ほんの少しの自信となりました。

何度も披露してきた曲も演奏し切って、自分のいまの気持ちも素直に表明することができました。興奮と、表現の喜びに包まれて、僕はステージに潜む魔物に飼い慣らされていると改めて実感しました。


この日の僕は、自分の出番の後にもバンドを見るだけの余裕がありました。

とんでもない演奏技術とセンスを兼ね備えたkannaには圧倒されました。ヒップホップやファンクの要素を取り入れたサウンドは、とても高校生とは思えないセンスです。そのうえに演奏技術がずば抜けていて、特にギタリストの男の子のプレイには釘付けになりました。


そして、ホームズセブンティーンの演奏です。自由なパンクロックでライブハウスを破壊するようなパフォーマンスを披露するあの人たちを見ていると、いつの間にか涙が溢れてきました。

自分が高校生の時、初めて入ったライブハウスも車道3starでした。「ライブハウスはこんなにも面白い場所なのか」と当時の僕はひっきりなしに感動していました。

あの時の鮮やかな気持ちが思い起こされるようでもあり、それを忘れかけていた自分に気付くようでもありました。僕は泣きながら、音楽の持つ魔力によって救い出された心地がしました。


人前で歌うことは恐ろしく、ギターを弾くことも恐ろしく、自分を知られることも恐ろしいと未だに思っています。

ここ最近、こんな考え方をしている僕は、もういっそライブなどしないほうが良いのではないかとも考えていました。

けれど、音楽を辞めてしまうことはもっと恐ろしいのです。


だから僕は、あの日からずっと音楽を辞められないし、それでいいのだと思います。

 

 


セットリスト

1.この世界にようこそ

2.ヒポコンデリー

3.ハリボテ

4.加害者の砂漠

5.グッドウィルハンティング