「俺、バンドやる。」
そう言って就職活動を蹴飛ばした日から、なんとなく考えてはいた。
夢を追いかけ、そこに敗れた人の惨たらしさたるや、いったいどれほどのものだろう。
なんにも成果を残せず、鳴かず飛ばずの日々。
いくつになってもコンビニエンスストアでアルバイトをして、常連客にもバンドをやっていることを知られ、声援を送られることもあれば、いつまでも遊んでいるなと叱責されることもある。今に見ていろと意地になってバンド活動を続ける。
知り合いのライブを見に行き、自身のバンドとの間にある差に愕然とする。多くの人々が拳を掲げるフロアを見て、自分もそんな光景を作り出せる歌を書きたいと思う。
いろんな場所、出会い、文化から刺激を受けて曲を書き、CDを作る。自分の人生を切り取って歌にする術も覚えた。そして自主企画ライブを打つも、フロアが埋まることはない。にも拘わらず、音楽をやっている間だけは生きていてもいい気がする。またいろんなものに耐える日々が始まって、耐えたぶんだけ曲を産み落とす。再びライブをして、またしても「生きていてよかった」なんてことを思う。
けれどそんな男からその「夢」を取り上げてしまったら、いったいどうなるのだろう。
かつてはサイフォニカというバンドとして活動していた。苦しいことも多かったけれど、それなりに評価してくれる人もいて、充実感もあった。自分には才能があるんじゃないかと思う日もあったし、てんで駄目で、もう辞めてしまおうかと本気で思い詰める日もあった。
サイフォニカとして活動していた当時、学生時代の友人たちは、僕の活躍を応援してくれていたように思う。時々顔を合わせると、
「バンドの調子はどうなの。」
「この間出したあの曲いいですね。」なんてことを言ってくれた。
けれど、僕が自分勝手な理由でサイフォニカを解散させてからは、誰もそう言ってくれなくなった。
触れてはいけない存在のように扱われている気がした。
SNSで、かつてのメンバーが自分を批難しているのを見た。
学生時代競い合うようにギターを弾いていた友人は、
「みんな今のお前に会うのをためらっているよ。お前に会うのは怖いって言ってる。」
なんてことを言ってきた。けれどそれを否定できないぐらいに、当時の僕はいろんな刺激に対して過敏になっていた。
僕はこの世の中のあらゆるものが、自分に向けて敵意を向けている気がした。
「お前にはもう歌う資格はない」
「人を裏切っておいて、今さら何を伝えられる?」
「いい人のふりをするな」
「お前には才能がない」
「こんな歌は誰からも必要とされない」
そういう類いの言葉が幻聴のように脳内でずっとリフレインして、なんにも考えられなくなった。
「僕はニンゲンになりたかった」として活動を続けるうちに、それなりに笑える日も増えてきた。けれど、夜毎自分を責めるまぼろしが消えてくれることはなかった。
そんな日々の中でも、結局僕の心を本当の意味で救い出してくれるのは音楽だけだった。音楽をやっている瞬間だけが、あのまぼろしを消し去り、無条件に自分を愛せる時間だった。
―――――
僕は、きっといろんな選択を間違えてきました。人を傷付けたし、許されないこともしてきたのかもしれません。もう27歳になってしまいました。この間は友達の結婚式に行ったのだけれど、やっぱり同級生とはうまく対等に話せなかったりします。
けれど、僕は今はできなくても、いつか逃げてしまったことさえも誇れるようになれたらと思うのです。間違えてしまったことさえ、正解にできたらいいなと思うのです。この世界がどれだけ僕を間違っていると断じたところで、その言葉を意にも介さず、ただ自分はここにいていいのだと、生きていていいのだと心から肯定できるようになりたいのです。どんな形になったって、音楽を続けていいし、笑っていいと思うのです。
僕はファースト・ミニアルバム「模範解答」に、間違いだらけだったこれまでの人生を詰め込みました。捻じ曲がっている自分の生き方をそれでも大切にするための歌を詰め込みました。そして、これからまた間違えて後悔するであろう自分を、奮い立たせるための言葉を詰め込みました。
この世界がどれだけ僕たちを否定したって、これが僕らの正解なんだって、大見得切って言ってやろうよ。世界が生き方を押し付けてくるのだとしたら、僕はずっとそこに反撃するパンクロックでありたい。
このミニアルバムが、誰かにとっての新しい正解に……。否、新しい正解を導くための足掛かりになることを願っています。
僕はニンゲンになりたかった
1st mini album 「模範解答」
2020年2月29日(土)発売 ¥2,000(税込)
ご予約はこちらから。
https://bokunariband.thebase.in/