ときには昔の話を。

‪あまりにも寒い冬の夜だった。風がびゅーびゅー吹き付けて、家の隣にある廃屋の窓や建て付けの悪い扉ががたがた音を立てて揺れた。寒さに耐えかねた僕は、「こちとら風呂上がりなんだぞ、風呂上がりなのにどうしてこんなに寒いんだ?馬鹿にしていやがる」とひとりぶつくさ言いながら家の近くを歩いていた。

 

久方振りに、学生時代に作ったデモ音源を聴いた。

 

学生時代から付き合いのある友達が結婚する。3つ歳下の女の子と、僕の友達が晴れて夫婦として世界にリリースされる。

その友達の結婚式で、当時作っていた歌を披露しなければならない。そんなニンゲンらしい営みの一環に、よもや僕が抜擢されようとは。

 

若かりし頃の僕の歌はとてもチープだった。いまだって、けして高尚なものにはなっていない。けれど当時は発声法もなにも知らず、ただ闇雲に声を出していた。曲の展開の甘さは、聞いているだけで赤面するような代物だった。

 

にも拘らず、当時の僕はこれを信じていた。誰かに自分の歌を聞かせる必要があると盲信していた。

その若さ、青臭さをくだらないなんて、だれが言えるだろうか。

 

その後で、新作の「模範解答」を聞いた。作曲能力、言葉選び、歌唱、ギターサウンド。ようやく自分が表現したいものに、技術やセンスが追い付いてきたような気がする。おこがましくも、早く誰かにこれを聴かせたいと思ってしまう。

 

友達と、昔話をした。いろんなあれこれを思い出した。学生のころの楽しかったことや悔やんでいること。誰かの恋の顛末。かび臭く狭かった部室。ニンテンドー64スマッシュブラザーズ。楽器の練習に使っていた2号館二階の廊下。大学側の事情でライブに使えなくなった講義室。いくつもバンドを掛け持ちしててんやわんやしていた日常。卒業後に閉店した居酒屋。当時まだ痩せていた同級生。段ボールにくるまって朝を迎えた秋口の深夜。大勢で雑魚寝をした合宿場の畳。夏と花火の残り香。フジファブリック若者のすべて。練習と課題に追われ、それでも幸せだったあの日々。

 

そんな些末なことを、話し通した。いくら掘り起こしても当時の思い出話が尽きることはなかった。

 

けれどその後で、できれば僕や彼が、もっと今のことをたくさん話せるようになればいいなと思った。

 

 

翌る朝、風邪を引きませんよーに。‬