2018年10月21日(日)名古屋Fairy-tale

エレクトリックギターというのは弱虫の楽器なのです。あることないこと脚色して、一人の人間を、実物よりもずっと大きく見せる……。

そんなことを考えるようになってしまいました。

けれど僕は事実、弱虫ですから、エレクトリックギターを愛してしまうのです。


それと同時に、木のギター特有の、自分の本質が露わになる性質にも惹かれるようになりました。

昨夜は名古屋市昭和区八事で弾き語りのライブに出演しました。僕はまたしても自分の恥部を曝け出そうと歌いに行ったのです。

 

 

八事は僕が大学生の4年間を過ごした青春の地です。坂が多く歩きづらいこの街の地面を、僕は毎日のように踏みしめていました。


思い返してみると、僕は大学生の頃には既に音楽というアイデンティティにしがみ付く性質を持っていたように感じます。僕は大学生というものの規範に則り、勉学よりも自分の好きなことを優先し、目先のことばかり追いかけながらも、しかし自堕落にはなり切れないといういちばん卑怯な立ち位置を占有していたように思います。

それでいて臆病者でもありましたから、音楽をライフワークにするといった決意までは固められないでいたのです。


そんな曖昧なモラトリアムの時間を過ごした僕が足繁く通っていた音楽サークルがありました。Fairy-taleのある建物の一階にあるSOUND NOTEこそ、かつてはその音楽サークルの専属ライブハウスだったのです。


ライブハウスSOUND NOTEでは学生時代、月に一回程度のペースでサークルのライブが開催されていました。現在では多方面に解放されたライブハウスになってはいますが、僕にとっては未だに学生時代を過ごした学舎であるかのように感ぜられます。

 

しかし、当時はまだ存在しなかった三階のFairy-taleには入ったことがありませんでしたから、その内装には面食らいました。

入り口には動物のぬいぐるみがいくつも転がっており、壁一面にはどこかの公園の緑豊かな写真が印刷されています。ピクニックができそうな木の机と椅子も設置されており、ライブハウス特有のアンダーグラウンドな雰囲気とはかけ離れていました。

その空間から扉を一枚隔てたホールに入ると、果実に見立てた光る球体が散りばめられた、白い木のオブジェが目に入ります。

ホールは白一色で塗装されており、ステージを眺めていると、

まるでパルテノン神殿のようだ、といった月並みな印象を持ちましたが、どうにもそれを口にする気は起こりませんでした。


ライブに出演する日は憂鬱な気持ちと、楽しみな気持ちとが半々です。

初対面の方々とどう接したらいいのか、それを考えていると胸が詰まる思いがします。


けれど、今日は遠方から見に来てくださった方がいて、その事実にまず嬉しくなりました。

もしも他の誰にも伝わらなくとも、この人にだけはきちんと伝えたいなあと、僕はそんな甘ったれたことを考えました。

それはもしかしたら、大多数の人に受け入れられることを目的とする、たとえばメジャーアーティストには相応しくない考え方なのかもしれません。

けれど僕は、たくさんの人のために歌える人よりも、目の前にいる人をどうしても放っておけない人のほうが、なんというか、素敵だなと思うのです。


意外な再会もありました。

共演者の中に、サイフォニカとして活動していた頃の自分を知っている方が、何人かいました。


僕は音楽がなければ人とうまく繋がれない人間でした。

音楽を続ける理由は変わってきているけれど、音楽を通して誰かと繋がれるという事実は今も変わっていないのだと改めて認識させられました。

 

 

今日は久しぶりに「セロトニン」を歌いました。

僕がかなり精神的に参っていた時に作ったこの曲は、今でも大切に歌えています。息苦しいまでのメッセージが乗っていますが、それ以上に素直な曲であると感じます。


アコースティックらしい新曲も一曲、歌わせていただきました。小学生のころに、元・友人たちに裏切られた記憶と、その後遺症について描いた歌です。あの日から、僕は人をあまり信用しないように生きてきました。けれど、今は自分のことさえも信用に値しないと考えてしまいます。結局人が僕を裏切るのは僕のせいなんだと考えてしまうのです。だから誰に非難されても仕様がありません。ネガティブなメッセージをポジティブな曲調に乗せた、さながら塩キャラメルのような妙味の歌です。


「ハリボテ」は何度もライブで歌っています。生きづらさについて歌った曲です。「僕はニンゲンになりたかった」という名前をもっとも体現している曲かもしれません。


最後は「グッドウィルハンティング」を歌いました。もっとたくさんの人に知ってほしい曲です。聞いてくれている人の心に、刺さったかしら。刺さっていなければ、めくれて、ささくれ立った心を少しでも掠められたかしら。

君は悪くない、君は悪くない。これは僕がずっと誰かに言って欲しくて仕方がなかった言葉です。

この曲について、一度詳しく解説したブログでも書こうかと思っています。

そんなことをしたら、音楽家としては失格なんでしょうか。けれど知ってほしいから、別にそんなルールなんて、本当はどうでもいいのだと思います。

 

歌い終えて、「ありがとうございました。」と挨拶して、ケーブルを抜いて、そそくさとステージから降りる。あの瞬間の、満足感と、寂しさと、後悔と。

 

今日はも少しうまくやれただろう。なんてことを考えなかったわけではありません。

ステージの上から見た客席の視線は相変わらず怖くて、真っ直ぐに見返すこともできません。


それでもなお、自分の矜持を持って歌い続けたいと思っています。

 

 

そうそう、11月25日には初の野外ライブが決まりました。

名古屋市の栄広場で演奏させていただきます。今回はバンドセットで。


それに向けて、近いうちにお知らせもありますので、ぜひ動向を追っていただけたらと思います。


ではまた。