町田に来るのは、もう何回目だろうか。
ぼくらが東京の、殊に町田にばかりライブに行けるのは、やはり盟友93°のおかげ。彼らはぼくらの大切な友達で、好敵手でもある。
ここ最近、ライブレポートではなくてツアーにまつわる日記と化していたから、今日はしっかりとライブレポートを書く。
先に断っておくと、今日のじぶんの演奏っぷりはじつに粗雑で、且つ意気消沈とさえしていて、演奏直後には恒例の死にたい病を発症していた。
ステージに立つ前は、久々のロングセットでの演奏に、期待が高まっていた。自分たちの曲を新旧含め8曲も演奏できることの喜びばかりが、ぼくの中にあふれていた。自己顕示欲の塊たるバンドのフロントマンとして、じつにもっともな意気込みだった。
しかし、演奏が始まってすぐ、ぼくは機材の操作ミスを連発してしまう。
新年からライブの導入として演奏しているインストゥルメンタルで、肝心な音が本来の音色で鳴らなかったのである。
聞いている人にどれだけ伝わったか定かではないが、ぼくの頭の中はパニックになりかけていた。
なんとか修正しようとするが、続く「アリとキリギリス」に於いてはイントロのギターで余計な音をぱちぱちと鳴らしてしまった。
「TNT」では、前奏で歯切れの悪いことを口走ってしまったし、ああ、書いていて笑えてきた。今日の自分は恐ろしいほど滑稽だ。
そんな滑稽な自分を尚更強調したのが、「くず」という曲だった。
本当に自分がみっともなくて、けれど開き直ることもできず、穴があったら入りたい、その中に虎がいるのならぼくを噛み砕いてしまっておくれ、どうか、そんなことを考えるほどだった。
そして沈黙のあと、「hayari」を演奏する。この曲は思いのほかうまくいったが、ぼくは羞恥心からお客様のお顔を直視することすら能わず、じぶんの足元を見、手元を見、時にはまぶたを閉じて、じつにおどおどとした姿を晒した気がする。
そのあとで、「ペルソナ」を演奏した。ぼくは少し前まで、この曲をやりたくなくなっていた。近頃は、この曲の良さを改めて実感している。しかしこの曲も前奏をすこし間違えた。だが歌は、まあまあよかった。
ステージの上で一人でに辱めを受けていたじぶんは、じつにこじんまりと収まっていたのではなかろうか。
93°との思い出をすこし語った。一昨日の打ち上げのことも。ぼくは、身近な人の音源をあまり聞きたくないという困った人間だ。ぼくは心のどこかで、そんなもの聞かなくてもぼくの方がかっこいいに決まっているんだから、なんてことを考えている。
でもぼくが晴れた日に、家に溜まった空き缶や段ボールを、最寄りの資源回収場所に棄てにいった帰り道に、車のなかで漠然と「もういっそ死んでしまいたい」と考えてしまったときに、93°の音楽がなんとなく聞きたくなった。そこには、ぼくが求めていたものが確かに在った。
ぼくは93°の歌を、とても好きになれた。歌っていない時の彼らの生活に触れるようで、歌を書いている時の、苦悶の表情が浮かんでくるようで。彼らの歌はじぶんの苦しみに対して、とても素直だった。
自分に近い苦しみを持っている仲間がいることを知って、ぼくの心はほんの少し軽くなった。
そんないつかの昼下がりのことを、思い出しながら話していた。
それから、グッドウィルハンティングを歌った。93°ボーカルのカナイに教えてもらった映画から生まれたこの曲は、彼の前で歌うときだけはすこし、緊張する。続けて、未完成を歌った。カナイが聞きたがってくれていた曲だった。サイフォニカとしても、久しぶりに演奏できたことが嬉しかった。しかし、またギターを間違えてしまう。客席に顔を向けられなかった。結果的にぼくは後悔ばかりしてステージを降りた。
死にたくなった。同世代のバンドが良い演奏をしていただけに、余計に苦しかった。
けれど、いいこともあった。
今日はCDが5枚売れた。
そのうち三枚は、初めて出会った人たちが買ってくれた。
5枚と聞いて少ないと思う人もいるかもしれないけど、お金を払ってライブハウスに来た人が、初めて見たバンドのCDを買うというのは、実はそれなりにハードルが高いことで、ぼくはそこを飛び越えられたことに感激して、その日の苦い失敗を忘れてしまいそうになった。
サイフォニカにはめずらしく、わかい女性のお客さんもいた。
後悔ばかりしていた自分とはうらはらに、聞いていた人の心には訴えることが出来ていたらしい。けれどぼくは次に見てもらうその日まで、もっと素晴らしい演奏を出来るようになって、もっと感動をしてもらいたいと、そんないやに前向きなことを考え始めていた。また、皆さんに出会えますように。そのときはぼく、もっとうまくやりますから。
セットリスト
1.インスト
2.アリとキリギリス
3.TNT
4.くず
5.hayari
6.ペルソナ
7.グッドウィルハンティング
8.未完成
