実に勝手なイメージで、ぼくは八王子はもっと都会だと思っていた。
高速を降り、中途半端に栄えた町並みを潜り抜けて、目の前に現れたのは、やはり中途半端に栄えた地方の都市のような場所だった。
八王子RIPSはあたたかいライブハウスだった。バンドマンとブッカーさんとの交流が、殊に心地よかった。
八王子のバンド達の音はどこか懐かしくて、所謂2000年代を彷彿とさせた。ぼくの楽団も、目新しい音を鳴らしているわけではない。その点で、彼らとはやはり仲良くなれそうな予感があった。
93°とはもうなんど、おなじステージに立ったかわからない。なんどもおなじステージに立つたびに、彼らの音は良くなっていく。ちかごろは、彼らの音がとても心に刺さる。
打ち上げでは久々に、アルコールハラスメントを経験した。けれど、きょうのアルコールハラスメントは、どこか心地よかった。自分のぬるさに、反吐が出そうになる。
ぼくらは明日のために、都心部まで移動した。
都心の金曜夜の漫画喫茶の倍率は、いやに高い。
ぼくはひとりで、勝手にカプセルホテルに入った。人生ではじめての、カプセルホテルだった。そこでは妙な感動がぼくを待ち受けていた。
家畜のように小さな部屋にひとりひとり閉じ込められる空間より、寝床に流れ込んでくる知らない叔父さんのいびきより、ぼくが衝撃を受けたのは歯磨き粉の味だった。
使い捨て歯ブラシに付随している、小さな歯磨き粉からは、山奥にある旅館のそれとまるで変わらない味がした。
恐らくは安っぽい、はっか特有の味。鼻腔に突き抜ける、ありふれた清涼感。
旅情は、東京都心の、こんな場所に転がっていた。
それはもしかしたら当たり前のことなのかもしれないが、ぼくにとってはきょう一番の幸福だった。
知らない叔父さんのいびきを聞きながら、きょうのライブのことを振り返る。
なんだかもっと、暗くて重たいライブがしたい気分だった。
ぼくは口に残ったはっかの残り香を、いつまでも味わっていた。
セットリスト
1. インスト
2. ロクショウの空に
3. TNT
4. hayari
5. ペルソナ
6. グッドウィルハンティング